雨の金沢発東京行きの新幹線発車時刻は12時57分。それまで時間もある事だし、当初は鈴木大拙館にでも再訪しようかなと思っていたが、この日、火曜日はあえなく休館だった。
ー 朝からの雨もしとしとと降り続き気温も下がり続け、どこかに遠出して散策する気分でもない。そんな訳で今回は比較的ホテルからも近い、ひがし茶屋街を訪れる事にした。2019年、金沢を初めて訪れて以来だ。
幸いホテルをチェックアウトする頃には小雨になってくれた。しかしやはりちょっとばかし寒いのは寒い。
バス亭に着くと着物姿の女性たちの姿も。京都なんかでも近頃よく見掛けるのだが、着物をレンタルし街中を散策するというものであろう。きっと彼女達もひがし茶屋街を目指しているに違いない。
そんな着物姿の人達に紛れ、やって来たバスに乗り込む。それからバスに揺られる事10分弱、ひがし茶屋街近くのバス亭で下車。バスを降りてからは皆、橋を渡りひがし茶屋街に向かっているのだが、私はこの橋の手前、浅野川に沿うように広がる主計町(かずえまち)茶屋街の方がどちらかと言うとひがし茶屋街よりお気に入りの場所だ。
ひがし茶屋街はどちらかと言うと観光地化されている感もあるが、こちらの主計町茶屋街はひっそりと佇んでいる感じだ。道もどこまでも細く入り組んでおり時折、町屋から三味線の音なんか聞こえてくるのは実に風情がある。
然程広くないこの茶屋街は直ぐに見終わってしまうが、暗がり坂を登って行くとそのまま泉鏡花の生家跡に建つ泉鏡花記念館へと続き、坂と反対方向に歩くと浅野川に出る事ができる。そう、この辺りは正に泉鏡花の小説の世界が広がる、そんな世界なのである。
主計町茶屋街をしばし堪能し、ここでようやく橋を渡りひがし茶屋街へ - 前回訪れた時は祭日の夕暮れ時でもあった為、大変な賑わいであったけれど、本日は平日、しかも朝だ。その分、人出でも少なく、のんびりと散策できたようにも思う。
とは言え、こちらも2回目の訪問という事もあり、細かいところに気を止める事なく、ぐるりと一通りあっと言う間に回ってしまった。まぁあくせくと歩き回っても仕方がないと思っていたところでもあり、丁度折りよく1軒いい感じのお茶屋さんを発見。こちらで美味しいお茶を頂きながら読書に勤しむというのもいいかもしれない。
最近読んだエッセイで、「旅先で本を読むこと」について書かれていたものがあった。「旅に出た時点で非日常であるのに、更にそこで本を読んで非日常の世界に浸る」という観点で書かれており、結果、それについて賛成か反対どちらだったか忘れしまった(というより、これをテーマに書いている他の本を幾つか読んだようで、そこは人によって賛成、反対、またどちらでもいいじゃん、と意見が分かれていたようだ)が、わたし的には旅先での早朝の散策同様、旅先で本を読むのはマイブームである。
確かに見るべきものが沢山あって、そこに時間を割きたい時もあるのだが、旅先で、ゆっくりと腰を落ち着かせ読む本はいいと言うか、どちらかというとその行為そのものがいいような気もする。地元のカフェなんか落ち着いてコーヒー片手に本を読んでいると、何だか自分がその町に少しばかり馴染んでいくような、そんな気もして来るのである。
旅先で読むべくチョイスした本、これが面白いと尚よいという事もあり、近頃は旅に合わせ持って行く本を選ぶのも旅前の楽しみの1つになっている。
お昼をどこかで食べようかと思っていたが結局食べそびれ、駅で笹寿司を購入し新幹線内で食べることとした。
この日は急な寒の戻りで東京に電力需要ひっ迫警報が出ていた日という事もあり、道中長野や群馬北部では雪景色 - そんな風景を眺めながら一路東京へ。3月も終わりのこの季節、沢山雪景色を見たような、そんな北陸の旅でした。