今回の東北、北海道旅のハイライト(と言っても旅はもうちょっと続く)は、やはり津軽海峡フェリーである。
船旅はいいものである。旅をするなら飛行機で一気に飛ぶよりできるだけ列車でゆっくり旅したいものだし、船があるとなると尚更の事その土地へは船で行ってみたい。 - 4年半前に青森を訪れた時は、かつての連絡船 - 八甲田丸 -は既にメモリアル船的な博物船になっており中を見学する事ができた。と、同時に青函トンネルの開通後に青森-函館間の船はもう無くなったと勝手に思っていた。
ところがどっこい、青森・函館間を走る船はまだありました。この船の存在を知ったのは何がきっかけか、そしていつだったか覚えていないけど、そう、いつかこの船に乗ってみたいとずっと思っていて今回やっとその念願叶いました。ついでに言うと函館は未踏の地だったので、今回の旅のルートにはまさにもってこい、と言う事で函館までは船で行く事に。
前述のメモリアル船 - 八甲田丸は青森市と言うか駅から歩いて行ける距離にあったのだが、今回利用した津軽フェリーのターミナルは駅からバスの乗って20分位のところにある。場所的には駅から青森県立美術館との間(どちらかと言うと美術館寄り)にあるので、午前中、美術館を訪れ、14時の便に乗るには丁度良かった。
ターミナルにはスマートチェックインなるものもあり、車で利用する人には便利な電子化も進んでいるようである。
それにしてもなかなか巨大な船である。船の向こうには八甲田山なんかも見えておりなかなかの風情である。
美術館からのバスに揺られこのターミナルで降りたのは私1人だったので、車無しの乗船なんて他に居ないのかな、なんて思っていたが、徒歩専用の乗船フロアーである4階に行くと待合室には思いのほか乗客が沢山居て驚いた。
ゲートを通過しいよいよ船内へ。
今回購入したのはビューチケットと言って進行方向を真っ直ぐに見て座ることができる。ここから函館港まで約4時間の旅である。14時丁度、右手に八甲田山を見ながら船はゆっくりと進んでいく。出発して直ぐは、カモメが沢山船の舳先辺りを飛んでいたが、暫くすると1羽もいなくなった。
どうやら、カモメ達はあまり遠くまでは飛ばないらしい。 - なるほど、その昔、星や太陽だけで航海していた海人と呼ばれる人々はカモメなどの鳥達が飛んでいる事で、その辺りに島や陸地がある事を知った。 - と聞いた事があったが、カモメなんかは確かに陸地から遠く離れた所までは飛ばないのだなぁ、と今更ながらに知りました。
私の隣の席にはカメラ片手に船内を動き回っているカップルが居て観光客かなという風情を出していたが、他の乗客は見慣れた風景なのか、特に景色を見るでもなく喋りに興じていたり、眠りこけたり、そして小学生の女の子達は宿題をしていたり、と、なるほど、この便はやはり地元の人達にとっては単なる移動の足なのだな、と実感しながらも私は船内をうろうろして写真を撮ったり景色を楽しんできたりしました。
それにしても青森の港は奥深く入り込んでいる為もあり、右に大間がある下北半島、そして左には北の外れ - 竜飛岬で有名な津軽半島の領域からなかなか抜け出せず、暫くは両半島に挟まれた形で進んでいき、まだまだ青森だなぁと思わせてくれる。そして船内に目を向けると眠る為におばちゃんが顔に掛けた手ぬぐいなんかもリンゴの柄だったりと、(これが沖縄辺りだとリンゴの柄じゃないよな、と)そんなところにも青森を感じさせてくれ、何となしに旅情を盛り上げてくれる。
出港して3時間後の午後5時頃、船の回りをカモメが飛び始めた - 先ほどの海人の知恵じゃないけど、大陸か島に近づいて来たのかもしれない。 - 果たしてその通り、小島が見え始め、暫く走るとテレビ塔を頂上に戴いた山が見える。 - あれが函館山かもしれない。
そして、更に走ると遂に目の前に山々を背後に従えた町が見え始めた。 - 船から眺める町の景色と言うものは最高である。決して飛行機や列車からでは見る事ができない町の風景を見る事ができる。
約4時間の航海 - 甲板に出てきたオレンジ服の乗組員達が見つめる先に函館の町が広がり、そんな街並みを見つめる乗組員さんの方々も仕事をしながらも、どこかこの景色をうっとりと見つめているような感がある。
函館港に到着したのは夕方6時頃。日が落ちかけるとちょっとまだ肌寒い。港を出て駅までのシャトルバスをチェックすると丁度30分後の6時30分にある。しかし、バス亭で立ち止まったのは私くらいで、みな歩いてずんずん進む。この先に電車とかでもあるのだろうか?と思ったけど、特に何もなさそうなので一旦ターミナルに戻る事にした。
私の推測だけど、どうやら先の方に歩いて行った人達は駐車場に向かったのではないだろうか。船は函館港に置いて青森まで乗船し、帰って来て駐車場に向かう。もしくは家族の誰かが迎えに来ている- 敢えて船を利用する人達はそんな人達かもしれない。
それにしても、あれほど沢山居た乗客はどこに行ってしまったのだろう?と思うくらい港のターミナルは閑散としていた。(私の隣居た観光客風のカップルも下船後はついぞ見かけなかったがどこに行ったのだろうか。)
ターミナルの待合所には船内では見かけなかったけど、(地元民なのか観光客かよく判別が付かない)女性2人組み、そして私だけが残された形となり、何だか寂しげであった。
6時半近くになったので、シャトルのバス亭に向かった。手前にはローカルバスが止まっており、それを通り過ぎる形でバス亭に着いたがシャトルバスはまだ到着していなかった。
よくよく停留所の案内を見ると、「本日6時半の便は運休」と記載があった。 - 何と!
仕方ないので戻ってローカルバスに乗るしか選択肢は無さそうだ。バスまで戻り開いていた後ろの扉から乗った瞬間にドアが閉まり、バスは出発した。 - どうやら、私がシャトルバスに乗れない(運休なので)という事が分かっていて、ローカルバスに戻ってくるだろうと踏んで、運ちゃんは私の事を待っててくれたようだ。それにしても、そんな気を利かせてくれる運転手で助かった。
函館駅まで行きたい事を告げると、「そしたら五稜郭前で降りてそこからは市電で行くといいですよ。バス亭に着いたら教えてあげますから」とおっしゃってくれ、その親切心が心に沁みました。
降りる時も市電の停留所や乗り方を教えてくれて、函館港のこのバスの運転手さん、とっても親切で、あぁ函館っていいところだな、なんて思ってしまった。
駅前の宿にチェックインし、さぁ食事でも、と思ったけど天気を調べると翌日は曇りのち雨である。あまり天気に恵まれない今回の旅、そして、函館を見る時間は明日1日しかない。せわしない旅であるが、明後日には札幌へ移動だ。となると函館の夜景を見るとしたら今日しかチャンスがなさそうだ。
幸いゆっくりとした船旅だった事もあり然程疲れを感じていない。宿から10分程で函館山の麓まで行けそうなので、まずは市電に揺られ函館山近くの電停、十字街へ。どうでもいい話だけど、函館に市電があるのを着いてから知ったのだけれど、電車によっては長崎の市電と全く同じタイプのものも走っていたり、車内で流れるアナウンスの声(コンピューター音声だと思う)が、長崎のと全く同じ声で、何だか帰省したようなノスタルジックな感覚だった。
この日は快晴だったせいか、函館山から見る景色は、なるほど確かに美しかった。これまでこの函館の夜景を見るにつけ、両側に海が広がり魚の尾びれのようになった地形は一体どうなっているのだ?と毎回思っていたけど、今回、船の上から函館山を確認したお陰か、はっきりと見ている方角と言うか地理的感覚を認識できた。 - 要は函館山は海っぺりに位置して、函館の町の南側から、ぐわーっと北側 - つまりはここから北海道が広がっていく様を見ていることになるのだな、と言う事がよく分かった。これもひとえに船旅のお陰かなとも思っている。
夜景を堪能した後は気分的にビールで乾杯だ。東北にいると日本酒な気分だったけど(とは言え、結局日本酒は秋田でしか飲まず青森での食事はお酒なしだった。)、北海道はSAPPOROのイメージもあってか、ビールで乾杯。一応北海道限定のSAPPOROクラシック、そしてお店の人が珍しいよ、と言って出してくれたほっけの刺身で乾杯。
函館、いい旅の始まりの予感がする初日である。