長らく東京というか関東圏内に住んでいて、まだ訪れた事がなかった歌舞伎座。
- そもそもその内部ではどんな事が行われているのか?とちょっとばかし疑問に思ってはいたが、なかなか足を運ぶ機会がなかった。
そんな中、密かに昔から見てみたいという演目があり、それが「与話情浮名横櫛」(よわなさけうきなのよこぐし)だ。
-このタイトルは知らずとも、昭和に流行ったあの歌を聴けばどんな話か分かる人も居るのではないだろうか。そう、あの歌とは春日八郎さんが歌った「お富さん」である。
私は、残念ながらというか、この曲どんぴしゃの世代ではないのだが、「懐かしのあの歌」的な感じでTVで再放送なんかされていたのを見ていたのか、曲だけは知っている。何と言っても「死んだはずだよ、お富さん」という言葉はとてもインパクトある歌詞であり、幼心にもこれがどんな事を歌った歌かは知らずともその軽妙なリズムと相まって妙に印象に残っている歌である。
それにしてもまさかこの歌が「与話情浮名横櫛」の演目の事を歌った歌だったとは、その後何年も知る由もなく、知った時には点と点が繋がって1本の線になるような不思議な感慨があった。
さて、この「与話情浮名横櫛」というお話は粗方の大筋は知っていたのだが結末だけは知らなかった。というか、知ろうと思えば知れたのであるが、ネットなんかで調べるより、映画なり、そして出来るなら歌舞伎で実際に観て結末を知りたいと思っていた。時々、歌舞伎座のサイトをチェックしていたのだが、(見逃していた時)もあるのか、なかなかこの演目に出会えない。そして、ついぞ先月に歌舞伎座のサイトでこの演目を4月に上演する事を発見!早速チケットを予約してみた。
- 4月某日、出発前に銀座三越の地下2階に寄ってお弁当を購入。三越からてくてく歩いて歌舞伎座まで向かう。到着すると歌舞伎座の前は沢山の人たちで大賑わいである。中には着物で観劇に来ている人達なんかも居て、なかなか、いなせだなぁ。それにしてもやはりコアなファンが大勢いるせいか、何だか上演前の歌舞伎座周辺はある種のパワーで漲っており、とても圧倒されてしまった。
早速中に入り、予約しておいた指定席を確認した後、一通り歌舞伎座内も見学。今回は1階の後方席にしたのだが(初めてだし、それなりに奮発していい席を確保)、一通り見学した感じだと2階席もなかなか見やすそうであった。あとは、1階席や2階席の両袖に桟敷席があり、こちらは舞台に向かって横向きというか、斜め向きになるのだけど、お弁当とか載せられる台も付いてて、特別感があり良さ気な席だった。値は張りそうですが。。
ー 歌舞伎は何となしにちょっとばかし小難しい印象を勝手に持っていたのだけれど、そんな事もなく、時代劇を観ているようで、笑いあり、涙ありでとっても楽しめた。何より今回ラストがどうなっているか知る事が出来た良かった。
この演目 - 「与話情浮名横櫛」は本当名作だと思う。
勝手に歌舞伎は、どれもこれも、話の中で顔に隈取を施した役者が、見得を切ったりするもんだと思い込み、今回の話の中でも、隈取や見得は無くとも、大袈裟な台詞回しで喋ったりするシーンもあるのかと思いきや、当然そんな事もなく、これまで長らく誤解していたなぁと。
で、「与話情浮名横櫛」の幕間の後に「連獅子」という演目があったのだけれど、こちらは、隈取をして、白髪と赤髪の獅子に扮した役者が髪を振り乱して立ち回る、所謂、イメージする歌舞伎の演目であり、こちらも観ることが出来て大満足。
観終わった後は何だか清々しい気分になり、銀座駅まで1駅分、散歩がてら歩いて帰ろうかと思いきや折からの低気圧接近のせいか、天気が急変し、昼間の暖かさが嘘のように寒くなっていた。小雨も降り出し、仕方ないので、そのまま東銀座駅から地下鉄に乗って帰路に着いた。
また折りを見て違う演目も観てみたいな、と、そんな気分にさせてくれる素晴らしい体験でした。