ジョカン寺、セラ寺、そしてガンデン寺を巡る旅 - ラサ 2005

 チベットの夜明けは遅い ー というのも中国全土は全て北京時間に設定されており、つまり北京が朝6時であれば、チベットのラサも朝6時という事になる。時差というものを考えると北京が朝6時であれば、ラサは4時頃に相当するのではないだろうか。その為、朝7時頃に起きても外はまだうっすらと暗い。

 ラサの中心地にはジョカンという大きなお寺がある。このジョカンの周りにはバルコルと呼ばれる八角街があり、チベット中から集まった巡礼者はこのバルコルをジョカンを右手に見ながら ー つまり時計回りで ー お寺の周りをぐるぐると巡礼している。

 さすが、チベット人なら1度は巡礼してみたいと思われているジョカン、その周りのバルコルにも集まる人々の風貌も様々である。

 バルコルでは各所で沢山のお香が焚かれ、また夜明け頃の時間帯という薄暗さも相まって煙というか朝靄に包まれたバルコルは幻想的である。

 私もここを歩くことを毎日の日課としており、周りのチベタンはみな、口々に「オム・マニ・ペメフン」と経と唱えながら、マニ車片手に巡礼している。中には五体投地でバルコルを回っているチベタンも沢山おり、歩いているだけでこちらも何だかありがたい気持ちになってくる。

 ある日、バルコルで初老の夫婦に出会った。赤い髪飾りをしているという事は東チベット辺りからの巡礼者であろうか。
 またバルコルの脇道の細い路地なんかを抜けるとチャイ屋さんが軒を連ねていたりしており、ここでよく休憩をしたりした。チベット人が多く集まるチャイ屋で、何も注文せずともチャイが目の前に運ばれてきて、その時にお金を支払うという仕組みで、1杯僅か8円程度だった記憶がある。

 そんな訳で、朝のバルコル巡りはとてもよいものであった。

 8月12日、この日はラサ近郊のセラ寺に行ってみる事に。バスで行こうかと思ったのだが、どのバスに乗っていいかよく分からず結局歩いて行く事に。1時間ほども掛かった。それにしてもここに来るまでに既に標高の高い東チベットを経由して来ているとは言え、標高の高いラサでも1時間ほど歩いても高山病になったりしないのはかなり高地順応している証拠だろう。

 これまで巡って来たラダックやダラムサラのお寺は誰にでも開かれており、お金を払う事なく自由に入れたものである(おまけに中ではチャイやバター茶をご馳走してくれることも)が、ラサにあるお寺はいちいちお金を徴収される。ここセラ寺でも、入口で「Hey,Mr.!Ticket!」と言われ、少しばかり気分を害してしまったので中に入るをやめて、お寺の周りのコルラ道を歩く事にした。これがなかなかよかった。

 小高い丘を登ったところからは、遠くにラサの街、そしてポタラが見渡せた。さらに暫く歩くと、チベタンのおじさん2人が雄大な崖をバックにして座って休憩してたので、写真を撮らせてもらった。  

 すると中国語で「お前は中国人か?」なんて聞かれたので、「いやいや、日本人だよ」と答えると、「そーか、そーか、それならここに座れ、座れ」と言っておじさん達の横に座るように薦められた。帰りは、そのおじさん達がバス乗り場まで連れて行ってくれて、ゼスチャーで、向こうからバスが来て、ここで折り返すから、それに乗りラサまで戻りなさいと教えてくれた。

 バスを待つこと5分ほど。おじさん達の言った通り、バスが前方よりやってきて、Uターン。そのバスに乗り込みラサの街まで戻った。バスで走ること2、3分。おじさん達が歩いてるのが見えたので、窓を開け手を振ったら、おじさん達も笑顔で手を振り返えしてくれた。

 8月14日 5時30分AM起き。ラサからバスで1時間ちょっとの崖に聳え立つガンデン寺へ。

 バスの出発が6時台しかないので、早起きは仕方ない。それにしてもまだ外は真っ暗だ。乗り込んだバスはどうやらチベット人達が巡礼用で利用するようなバスで中には巡礼者が沢山乗り合わせていた。

 ガンデン寺への道は険しかったというか、道なき道を走り、運転を一歩間違えれば奈落の底へ一直線!というような道であり、寿命がちょっと縮んだ。今はもう道もきっとよくなっているのかもだけど、この頃はそんな感じであった。

 

 崖に聳え立つこのお寺は壮観であったが、残念ながら60年代の文化大革命で破壊され10年ほど前より再建が始まったお寺である。寺院内の奥の方は破壊されたままになっていたりする。

 一旦昼食をとり寺正面に聳えるちょっとした山に登ることに。

 目指す山頂はかなり遠いが、そこからはガンテン寺を見下ろせこれまた壮観らしいという話を聞き、頑張って登ることに。日本でも通常、山登りはとても辛く感じるのにここは、既に標高4,000m以上ある。 
 富士山の山頂から更に山登りを始めるようなものだ。ちょっと歩いただけで息が切れるため、休憩する事7,8回。結局1時間少し掛かって山頂へ。

 山頂から眺めるガンデン寺ももちろん素晴らしかったが、山頂にはタルチョ(祈祷旗)が無数に風になびき、壮観であった。

 帰りも巡礼者が沢山乗ったバスに揺られて一路へラサへ ー 私の前の座席に座っていたチベタンのおばちゃんが道中ずっと鼻歌でチベットの?歌を歌っており、それが周りの景色と相まって旅情気分を実に盛り上げてくれた。

 チベット・ラサで巡った3つのお寺、そんな思い出。