ここはダライ・ラマ法王の住む町ダラムサラ - ダラムサラ・インド 2004

 2004年7月6日、レーにて。この日は早朝5時起き。マナリから共に旅をし、ここレーでも部屋をシェアしていたAさんと宿を後にしレーの空港へ。カシミール情勢の為か、空港のセキュリティはやたらと厳しい。

 それでもほぼ定刻通りの7時半AM、飛行機は無事ジャンムーへ向けて飛び立つ。来る時は陸路だったが、さすがにまたあの道を引き返す元気もなく、戻りは飛行機を使うことにした。ラダックの荒涼とした大地を眼下に見ながら飛行機は南へと進んでいく。

 今日のルートは、まずジャンムーまで飛び、そこからバスでパタンコットまで行き、再度バスを捕まえダラムサラまで行く予定である。行きは約20時間も掛けそして5,000m級の山々を4つも越えて、息も絶え絶えの移動だったのに、フライト時間はたったの45分程度。あまりのあっけ無さに拍子抜けしてしまう。

 ジャンムーの空港到着後、そこで出会ったスイス国籍のお坊さんとオートリキシャをシェアしバススタンドへ。丁度10時10分AM発のパタンコット行きのバスがありそれに乗ることに。パタンコット到着後、ダラムサラ行きのバスに乗り換える。このバスが2時10分PM発だった。

 パタンコットからは山道を幾つか越え4時間ほど走り6時PM、やっとロウアーダラムサラに到着。そこから更にミニバスに乗り(かなり細かい移動だ)アッパーダラムサラこと、マクロードガンジーに30分程で到着。バスにはダライ・ラマ法王の写真が正面に飾られ、そこには誕生日を祝う文字が。そうだ、今日は7月6日、ダライ・ラマ法王の誕生日である。

 遂に法王の住む街、インド北部のダラムサラまでやって来た。しかも法王の誕生日に。

 この時期、法王は外遊に出ているらしくダラムサラには居なかったが、法王の住む家の前にあるお寺 - ツクラカンと呼ばれる寺院の下側(ダラムサラは坂の多い町なので、崖下という感じ)にコルラ道が広がり、毎日のようにこの道を歩いた。

 コルラ道とは巡礼道みたいなもので、そこにはマニ車があったり、チベットの祈祷旗 - タルチョが無数にたなびいており正にチベット世界そのものだ。地元のチベタンの方々もよく歩いており、約30分ほどの道のりを彼らと共に時には挨拶を交わしながら毎日のように歩いたものだ。

 そのツクラカンに夕方頃訪れると寺院の中庭でチベタンの僧侶達による説法問答をよく目にする事ができた。説法問答とは1人の僧侶をぐるりと数人の僧侶達で囲み、何らかの質問を投げ掛ける。例えば「犬は人間に生まれ変わる事ができるか」など。質問する時には右手を振りかざし左手の平をパチン、と叩きながら質問を発するのがポイントだ。それに受け答えを行い、またそれに対して質問を投げ掛ける、という具合に問答が繰り返される。その説法問答のグループがそこかしこに幾つもあり、夕暮れ時のツクラカンはとても賑やかだ。

 ダラムサラにやって来たのはいいが、このまま法王に会えずに去る事になるのか・・・と思っていたところ、7月22日から10日間に渡り法王の説法が始まるとの情報が入ってきた。ツクラカン堂での説法を聞くには入場証が必要との事で朝7時に起きて事務局へ申し込みへ行って来た。

 受け付けは9時AMからスタートなのだが、とても混むとの事で早めに行ったところ、受け付けと思われるオフィス2Fに既にチベタンの方々が数名並んでおり(実に熱心だ!)、「ここかな?」と思い一緒に並びオープンを待つ。9時丁度にオフィスが開き中に入ると、「外国人の受け付けは1Fだ」と言われ、折角並んでいたのに・・・と思いつつも1Fに降りるとまだ閉まっていた。10分ほど待ちこちらもようやくオープン。渡された用紙に住所やパスポートナンバーなどを記載し、受け付けは終了。意外に簡単だった。さぁ22日からいよいよ法王による説法だ。

 入場証の次はツクラカン堂内での場所取りが必要との噂を聞き、適当に段ボールを調達し名前を記載し場所取りへも行って来た。確かにあちらこちらに既に場所取りがされており、事前に場所を取っておいて良かった。私はお堂の右後方辺り、つまりは左斜め前に法王を拝めるなかなかいい位置が取れた。


 そしていよいよ7月22日 - チベタンは寺院などを巡る時、建物を右手に見ながら歩を進める。つまりはいつでも時計回りだ。そんな訳で法王も寺院の左後方から登場し、ぐるっと時計回りをし中央に設けられた椅子に向かって歩き始める。登場の際、軍服を着た警備のインド人達がガシャリ、と銃を構え直し、そんな中法王が笑顔で手を振りながらの登場。当然ながら私の周りのチベタンたちはみな総立ちだ。

 法王の顔はやさしく、そして穏やかだった。堂内に設けられた中央のイスに座ると周りでは五体投地を始め全身全霊でお祈りも捧げる人達の姿も見られた。

 今回、説法のスポンサーは台湾という事で法王がチベット語で話した言葉は中国語で通訳されたものがマイクで流され、同時に英語はFMで流される為、英語で聞きたい人は事前にラジオを購入し、教えてもらった周波数に合わせると英語通訳が聞けるという仕組みだった。

 法王登場後、台湾から来ていた尼さん達の歌っているような低い声での声明(しょうみょう)が軽やかでもあり、神聖的でこちらも毎朝聞き惚れてしまった。

 説法は10日間、朝は8時頃からスタートし3時間程行われた(実際は1時間半程だと思うのだが、通訳が入ったりする関係で3時間程になる)。しかも英語で聞いているので難しい宗教的な話はやはり理解するのが難しい箇所もあったが、法王を目の前に直接声が聞けるのは実にありがたかった。

 最終日は説法というより、お祈り中心で、僧侶達がお経を唱えたり、祝いの赤い紐が配られ、みなで瞑想をやったりなどした。そして最終日の為か法王もリラックスし時折冗談を発したりという具合にこれまでと違った一面も見せてくれた。 - 例えば、堂内に猿が現れた時に「サルがやって来ました。今、説法を聞きながら寝ている人を見つめています」とか、観音菩薩のタントラ(経典)を僧侶達が唱えてる最中に「ここいらで、トイレ休憩にしましょう。みなさんもトイレに行きたいころでしょうから。自分もトイレに行きたくなってきました。観音菩薩も同じ気持ちでしょう」などと言ったりし笑いを取り和やかに進んでいった。

 そんな訳で10日間長かったが、皆勤賞で、充実感あり。さすがに10日間も通うと回りのチベタンの人達とも顔見知りになり、最後の方はみな持参しているチベタンブレッドやおかしを分けてくれたり。そして私が段ボールだけで座っているのに気付くと「これを使いなさい」と毛布を分けてくれたりと兎に角周りのチベット人達がとっても親切だった。

 最後、法王が「You don’t need to stay in Dharamsala any more,like no more than 10 days..You miss home,so it’s time to say good bye」という言葉で締めくくり、大喝采の中、説法は無事終了。

 ずっと来てみたかったダラムサラ、一目でいいので法王にお目に掛かれないものかと思っていたところ、思いがけず10日間も説法を聞くことができ大満足であった。
 

 最後、ダラムサラの街中や出会った人々、そして少し足を延ばしたところにあるトリウンドへトレッキングした時の写真もどうぞ。